夜間運転・無人運転を支える考え方
こんにちは、技術コンサルのTです。
今回は、工作機械FMSを止めにくくする保全性設計について書いてみたいと思います。
FMSを検討する際、多くの企業では「何時間無人で動かせるか」「夜間運転できるか」「省人化できるか」「加工機の稼働率を上げられるか」といった点に注目します。
もちろん、これらは重要です。工作機械は設備投資額も大きく、稼働時間を伸ばすことは生産性向上に直結します。
ただし、FMSを安定して使い続けるためには、設備が止まらないことだけを目指すのではなく、止まったときに短時間で、安全に、確実に復旧できることが重要です。
特に工作機械のFMSでは、加工機、ロボット、パレット搬送、工具、治具、洗浄、検査がつながります。どこか一か所で小さな異常が起きると、ライン全体の停止につながることがあります。
ラインビルダーやFAインテグレーターに求められるのは、設備を動かすことだけではありません。量産後に現場が使い続けられるように、保全性、異常復旧、見える化まで含めて設計することです。
■ FMSは「止まらない設備」ではなく「戻しやすいライン」が重要
どれだけ作り込んだFMSでも、実際の製造現場では小さな異常が発生します。
ワークの姿勢がずれる。切粉が残る。クーラントの影響でセンサが汚れる。工具寿命が近づく。パレットの位置決めが不安定になる。ロボットの把持がわずかにずれる。測定結果が規格外になる。
こうした異常を完全になくすことは簡単ではありません。
そのため、FMSでは「異常を起こさない設計」と同じくらい、「異常が起きてもすぐ戻せる設計」が重要になります。
保全担当者が、どこで何が起きたかをすぐ把握できる。ライン上に残っているワークの状態が分かる。安全に手動復旧できる。交換部品や点検箇所にアクセスしやすい。こうした設計ができていると、停止時間を短くしやすくなります。
■ 工作機械FMSで起きやすい停止要因
工作機械FMSでは、一般的な自動化ラインとは少し違う停止要因があります。
たとえば、切粉やクーラントです。加工後のワークや治具に切粉が残ると、クランプ不良、着座不良、測定誤差、ロボット把持不良につながることがあります。センサや確認スイッチが汚れて、検知不良が発生する場合もあります。
工具寿命も重要です。工具交換のタイミングが適切に管理されていないと、加工不良や工具破損が発生します。夜間運転を行う場合は、運転中に工具寿命が尽きないかを事前に確認する仕組みが必要になります。
ワーク状態の管理も欠かせません。加工前、加工中、加工後、検査前、検査後、再加工待ちなど、FMS内には複数の状態のワークが存在します。異常停止したときに、どのワークがどの状態なのか分からないと、復旧に時間がかかります。
また、ロボット搬送やパレット搬送では、受け渡し位置のズレ、把持ミス、干渉、空パレット不足、完成品置き場の満杯なども停止要因になります。
FMSの保全性設計では、こうした停止要因を想定し、見える化と復旧手順をあらかじめ設計しておくことが大切です。
■ 夜間運転で重要になるワーク・工具・設備状態の見える化
FMSで夜間運転や無人運転を行う場合、昼間の有人運転とは違う視点が必要になります。
作業者が近くにいれば、異常の兆候に気づいて対応できます。しかし夜間運転では、設備が自分で状態を判断し、危険な状態に進まないようにする必要があります。
そのために重要なのが、ワーク・工具・設備状態の見える化です。
ワークについては、どのパレットにどの品種が載っているのか。加工前なのか、加工済みなのか。検査結果はOKなのか、NGなのか。再加工が必要なのか。こうした情報を管理できると、異常復旧時の判断がしやすくなります。
工具については、使用回数、加工時間、寿命、交換予定を管理することが重要です。夜間に投入する生産計画に対して、工具寿命が足りるかを事前に確認できれば、運転途中の停止を減らしやすくなります。
設備状態については、加工機、ロボット、搬送装置、洗浄装置、検査装置の状態をHMIで分かりやすく表示することが有効です。どの設備が停止要因なのか、どのインターロックが働いているのか、どのワークを取り除く必要があるのかが分かれば、復旧時間を短縮できます。
■ 保全しやすいレイアウトと点検動線
FMSでは、設備を高密度に配置することがあります。
工作機械、ロボット、パレットプール、ストッカー、検査装置を限られたスペースに入れようとすると、どうしてもレイアウトが複雑になりがちです。
しかし、設備を詰め込みすぎると、保全性が下がります。
センサ交換のためにカバーを大きく外さなければならない。切粉清掃がしにくい。クーラントまわりの点検に手が届かない。ロボットハンドの調整スペースが狭い。工具交換や治具交換の作業姿勢が悪い。こうした状態では、量産後の保全負荷が大きくなります。
FMSのレイアウトでは、設備が入るかどうかだけでなく、保全できるかどうかを見る必要があります。
点検口の位置、作業者の立ち位置、交換部品へのアクセス、清掃スペース、フォークリフトや台車の動線、安全柵や扉の開閉範囲まで含めて設計することが大切です。
これは設備単体では見えにくい、ラインビルダーとしての重要な視点です。
■ 制御設計で復旧時間を短くする
保全性は、機械設計やレイアウトだけで決まるものではありません。
制御設計も、FMSの復旧時間を大きく左右します。
たとえば、異常表示が「搬送異常」だけでは、現場は原因を探すところから始めなければなりません。どのパレットで、どのセンサが、どの条件を満たしていないのかまで表示されていれば、確認作業は短くなります。
また、手動操作画面も重要です。
異常復旧時に、ロボット、パレット搬送、工作機械、検査装置を安全な順番で動かせるか。誤操作で干渉しないようインターロックが設計されているか。復旧後に自動運転へ戻る条件が分かりやすいか。
こうした制御設計ができていると、設備が止まったときの現場負荷を下げられます。
さらに、異常履歴や停止履歴を残しておくことで、立ち上げ後の改善にもつながります。どの異常が多いのか、どの時間帯に止まりやすいのか、どの品種で停止が発生しているのかを見える化できれば、FMSの稼働安定化を進めやすくなります。
■ まとめ:FMSの価値は量産後の稼働安定化で決まる
工作機械FMSは、多品種少量生産、省人化、夜間運転、無人運転を実現する有効な手段です。
ただし、FMSの価値は導入時に設備が動くことだけで決まるわけではありません。量産が始まってから、どれだけ安定して動き続けられるか。止まったときに、どれだけ早く復旧できるか。現場が無理なく保全できるか。そこまで含めて、FMSの良し悪しが決まります。
工作機械FMSを検討する際は、加工機、ロボット、搬送装置、検査装置の能力だけでなく、切粉、クーラント、工具寿命、ワーク状態、異常表示、保全動線、手動復旧まで含めて設計することが重要です。
Thermixでは、工作機械まわりのFMSについても、設備をつなぐだけでなく、量産後に現場が使い続けられるラインづくりを大切にしています。夜間運転や無人運転、省人化をご検討の際は、設備能力とあわせて「保全しやすさ」「復旧しやすさ」という視点も取り入れてみてはいかがでしょうか。