グローバル展開を支えた“逆転発想”の新規ライン立ち上げ
[地味スゴTMX事例シリーズ]
岡山を本拠地に国内はもちろん世界中——テルミックスは大小さまざまな工場自動化に携わってきました。今回ご紹介するのは、東南アジアで生産していた自動車を、ブラジルへ展開するための新規ライン立ち上げプロジェクトです。
溶接を含む組立工程を支える生産設備一式。テルミックスはターンキー(全設備一括)として受注し、構想・仕様検討から設計、制作、施工、SV(作業責任者)まで一貫して担当しました。
一般的には「人作業 → 自動化」「エアー → 電気制御」「手組み → ロボット化」といった方向で進むことが多いのですが、今回は逆。ロボットを使用した電気制御の自動ラインを、エアーシーケンス(電気無し)を使った作業者中心の組立ラインとして立ち上げるという、ある意味“逆行”する構想でした。
■ 仕様検討・構想:ロボット前提の工程を「人にやさしい工程」へ再設計
本案件の肝は「人が作業するラインとして成立させること」でした。ロボットであれば難なくこなせる動作でも、人間が同じ姿勢・同じ精度で繰り返すのは意外と難しい。しかも小ロットであっても品質を担保しなければならない。ここに、設計の難しさがありました。
たとえば、ロボット前提の治具は「位置決め精度が高いほど良い」となりがちですが、人が使うとなると話が変わります。精度を追いすぎると、作業者の負担が増え、動作が窮屈になり、結果として品質やタクトに影響が出てしまう。そこで必要になるのが、作業性を前提にした“治具スペックの最適化(あえてのスペックダウン)”です。
この“逆転発想”が新鮮で、技術者としても非常に刺激的でした。「自動化の発想で設計したら、作業者は困る」——そのギャップを埋めるために、現場目線での構想と治具設計を何度も見直し、工程全体としての成立性を追い込んでいきました。
■ 制御・インテグレーション:電気無しのエアーシーケンスを読み解き、成立させる
本ラインは、電気制御ではなくエアーシーケンスが中心。エアーシーケンスは回路が複雑になるほど“読み解き”が難しくなります。回路を解読しながら、工程として成立する制御を組み上げていく必要がありました。
ここはまさに地味な積み上げの領域です。
図面と現物を照らし合わせ、動きを頭の中でシミュレーションし、想定通りに動かない場合は原因を一つずつ切り分けて潰していく。自動化やロボットの“派手な印象”とは裏腹に、こうした地道な制御検討が、海外の安定稼働を支える重要な要素になります。
■ 施工・SV:海外輸送・現地対応という“もう一段”の難しさ
海外案件では、トラブルがつきものです。輸送中の衝撃で設備が破損する、現地で手に入る工具や資材が限られる、想定外の調整が必要になる——こうした“現場での判断力”が求められます。
今回も、輸送で設備の一部に不具合が出た際、
「この条件で直せるか」「現地調達で成立するか」「その場で仕様を変えるべきか」
を素早く見極め、限られた環境で最適解を探す必要がありました。
トラブルが起きること自体は珍しくありません。大事なのは、原因を順番に潰していき、現地の制約の中で“やりきる”こと。海外のライン立ち上げにおいて、この姿勢が品質にも納期にも直結します。
■ 常駐×協力会社×事前潰し込みで、短納期を成立させる
短納期で全設備・治具を立ち上げるために、テルミックスは顧客担当者に常駐していただき、寄り添う形で仕様を煮詰める進め方をとりました。
「作業者がこう動くなら、この治具形状が良い」「この工程は将来の変更も見据えて余裕を持たせよう」
そうした会話を日々積み重ねながら、仕様のズレを無くしていきました。また、設計製作は海外協力会社へ発注し、設備完成の頃に設計担当は半月、現場担当は1か月の渡航で最終調整・確認を一体となって実施。さらに、出荷前には社内で設備を設置し、不具合を徹底的に潰し込んだうえで出荷できたことで、現地作業は大きく軽減されました。
設備は“納める”だけでは終わりません。現地で動き、現地で使われ、現地で安定稼働して初めて価値になります。
そこまでを責任として捉え、やりきる——ここがテルミックスの強みです。
お客様に常駐頂いている期間中は、日本式BBQでブラジル人担当者をおもてなししたり、お客様チーム(日本人・ブラジル人混合)vs テルミックスチームでソフトボール大会を開催したりと、技術だけでなく人と人の信頼を積み上げる時間も、プロジェクトの推進力になったと思います。
■ ブラジル現地:協力的な現場と、言葉・治安・時差というリアル
現地工事では、ブラジルの皆さんが非常に協力的で、仕事に誇りとプライドを持って取り組む姿が印象的でした。一方で、言葉の壁は大きく、スマホ翻訳が必須。日本とのやり取りは時差12時間という条件もあり、意思決定のスピードを落とさない工夫が欠かせませんでした。
また、常に治安を意識した行動も必要でした。夜は団体行動、路地に入らない、移動計画を丁寧に立てる——こうした“仕事以外のリスク管理”も含めて、海外SVでは重要な要素になります。
■ 本案件で発揮された“地味にスゴイ”強み
• 自動化ラインを人作業ラインへ再設計する構想力・提案力
• 治具を“作業者目線”で成立させる設計力
• 電気無しのエアーシーケンスを読み解き、制御として成立させる技術知見
• 海外輸送・現地制約下でも判断し、施工・SVまでやりきる実行力
• 常駐型の仕様検討と、協力会社を束ねるプロジェクトマネジメント力
■ おわりに
本案件は、自動車のグローバル展開という大きなテーマの中で、ロボット自動化とは逆方向のラインを成立させるという、ユニークで難易度の高い挑戦でした。ターンキーで全設備を担い、車1台が出来上がっていく工程を丸ごとつくり上げていく——その楽しさと責任の重さを、現場で実感したプロジェクトでもあります。
派手ではありませんが、こうした「地味な積み上げ」を最後までやりきり、現地で確実に動く形にして届ける。それがテルミックスのラインビルダーとしての仕事です。